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パテント・トロール対策としてのSHIELD法案について

自らは事業を行わず、投資家から集めた資金を使って特許を取得し、その特許を使って実際に製品を作ったりサービスを提供している企業を特許侵害で訴え、和解に持ち込んで和解金を得るあるいは判決で損害賠償を得る、という活動を行なっている主体をパテント・トロール(特許の怪物)といいます。

怪物というのはあまりほめられた表現ではないため、よりフォーマルにはNon-Practicing Entities (特許を実施していない主体)略してNPEsと言われています。

ボストン大学の調査によると、2011年に米国でNPEs(いわゆるトロールのほか、個人発明家、大学、自社製品と無関係の特許権を行使した企業を含む)に要した直接費用(訴訟費用とライセンス・フィー)は290億ドルに達しています。(http://www.bbc.com/news/technology-18598559)

仮にNPEsから訴えられた場合、十分な資力のない企業は訴訟を継続する費用を賄うことができないため、早期に和解に応じざるを得ないといった状況に追い込まれがちです。

こうした、既存の特許制度の機能不全ともいえる状況に対して、米国議会にパテント・トロール対策法案ともいえる法案が今年の8月に出されました。その名も The Saving High-tech Innovators from Egregious Legal Disputes Act (SHIELD Act)です。直訳すると、ハイテク・イノベーターを不当な法的争いから守る法ということになります。

法案の内容は、コンピュータ・ハードウェアまたはソフトウェアの特許侵害に関する裁判について、裁判所が「特許侵害を主張する者(特許権者)が、合理的に勝てる見込みがなかった(did not have a reasonable likelihood of succeeding)」と決定した場合には、裁判所は訴えられた側のすべての訴訟費用(合理的な弁護士費用を含む)を訴えた側の負担とすることができる、というものです。

通常のルールでは、防御側が要した弁護士費用は裁判の勝ち負けにかかわらず防御側の負担であるため、事業を行なっている企業はディスカバリー等の多額の費用を要することとなり(他方、訴えた側は事業を行なっていないので、要する費用は相対的に少額となる)、これが早期の和解に傾く要因ともなっていました。

訴える側の特許権者としては、相手方の多額の弁護士費用が自分の負担となって跳ね返ってくる可能性があると思うと、容易に訴訟に打って出ることはしにくくなるため、この法案がもし成立したら、パテント・トロールを抑制する効果は大きいです。

ただし、法案は特にトロールに限定したものとはなっていないため、ハードウェア特許やソフトウェア特許を持つ個人など十分な資力のない主体についても、同様に裁判を起こすことは難しくなります。個人がマイクロソフトを自身のソフトウェア特許の侵害で訴えて、後でマイクロソフトが使った弁護士費用を払えと言われたら破産確定です。

そういう意味では、この法案で最も助かるのは、いつもいつも権利範囲が曖昧なソフトウェア特許で訴えられているアップルやマイクロソフトといったHigh-Tech Giantsということになりそうです。

なお、ソフトウェアに特許を認めることについては、米国でもまだ議論が決着していないようで、このSHIELD法案でも条文中にソフトウェア特許の定義 (any process that could be implemented in a computer regardless of whether a computer is specifically mentioned in the patent) が含まれているものの、これは特許の対象となるもの (categories of patent-eligible subject matter)の修正や解釈を意味するものではない、つまりソフトウェア特許を積極的に認めるものではない旨の文言が含まれています。

ソフトウェア特許やビジネス方法特許は、米国や日本では認められていますが、EUやイギリスでは限定的にしか認められていません。最近ではこれらの特許はそもそもの目的である産業の発達を阻害しているのではないかとの論調を目にすることも多くなってきています。

現実に事業を営んでいる企業としては、現行の制度の中で競争していくしかないため、ソフトウェア特許が経済全体に与える影響にかかわらず、自社に取って必要であればそれを使っていくことになります。競争条件を整え、イノベーションを促すのは政府の役割です。


イギリスのパテントボックス:対象となる特許は?

2013年4月から欧州の大陸各国に続いてイギリスにもパテントボックス税制が導入されます。

対象となる特許に係る所得について法人税率を10%に軽減することにより、研究開発型企業がイギリスから出ていくのを抑えるとともに、海外からの企業の進出を図る目的で創設されるものです。

このパテントボックス税制の対象となるのは、以下の特許またはその独占実施権を有している在英国企業です。独占実施権については、少なくとも全国的(country-wide)である必要があります。

  • 英国知的財産庁(the UK Intellectual Patent Office; UK-IPO)から受けた特許
  • 欧州特許庁(the European Patent Office; EPO)から受けた特許
  • 特定の欧州経済領域(European Economic Area; EEA)の国から受けた特許

上記のうち3番目の特定国については、以下の13か国が明示されています。これらの国の特許を有する在英国企業についても、イギリスの法人税についてパテントボックス税制を選択することが可能となります。なお、これらの国の実用新案権またはこれに類似する権利はパテントボックス税制の対象とはなりません。

オーストリアブルガリアチェコデンマーク
エストニアフィンランドドイツハンガリー
ポーランドポルトガルルーマニアスロバキア
スウェーデン   

 

以上のとおり、特許(patent)のみが対象となっているため、実用新案(utility model)、意匠(design)、商標(trademark, servicemark)、著作権(copyright)などはパテントボックス税制の対象とはなりません。

また、特許に類似する以下の権利または企業についてもパテントボックス税制の対象とされています。

  • 医薬品の補充的保護証明書に関する規則(理事会規則(EC) 469/2009)および農薬の補充的保護証明書に関する規則(理事会規則(EC) 1610/96)に基づく補充的保護証明書(Supplementary protection certificates; SPC)
  • 1977年品種法(the Plant Variety Act 1977)の第一部(Part 1)に基づく育成者権(plant breeders' rights; PBR)
  • 欧州共同体品種権規則(理事会規則(EC)2100/94号)による共同体植物品種権(community plant variety rights; CPVR)
  • 欧州委員会規則 (EC) 726/2004または人用医薬品に関する指令 2001/83/EC による人用医薬品(medicinal products)の市販認可(marketing authorisation rights)を受けていて同規則および同指令による保護(marketing protection)を受けている企業
  • 小児用医薬品規則 (EC) 1901/2006の38条により欧州委員会規則 (EC) 726/2004または人用医薬品に関する指令 2001/83/ECに基づく市販認可を受けていて保護期間内である企業
  • 規則 (EC) 141/2000により排他的市販期間(a period of marketing exclusivity)にある希少医薬品(orphan medicinal products)に指定されている医薬品
  • 指令 2001/82/EC の保護期間内にある動物用医薬品(veterinary medicinal product)
  • 規則 1107/2009 の59条によるデータ保護期間の利益を受けている農薬(plant protection products)

医薬品関連についてはやや細かい規定ぶりとなっていますが、UK特許、EU特許または上記各国の特許を用いた製品の製造、販売、輸出をイギリスで行なっている場合には、本パテントボックス税制を適用することにより、税金費用を大幅に削減できる可能性がありますので、対象特許の在イギリス法人への移転や独占的ライセンスの付与を検討する必要があります。

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イギリスの「パテントボックス」制度は要注目

ちょっと前になりますが、経団連が来年度の税制改正として「パテントボックス」の創設を要望しました。(SankeiBiz経団連

3.パテントボックス・イノベーションボックスの創設

現行のわが国の研究開発促進税制は研究開発段階の投資活動に着目した制度設計となっているが、研究開発が成功を収めた後の段階において、その成果物である知的財産権等の無形資産を国内に保有し、商業化するインセンティブは乏しい。一方で、欧州諸国においては近年、知的財産権に起因する所得(ロイヤリティ、知的財産権の譲渡益、知的財産権を利用して製造した商品の販売益で一定のもの)について低税率または所得控除を適用する、いわゆるパテント・ボックス、あるいはその概念を知的財産権以外にも拡大したイノベーション・ボックスを相次いで導入している。英国も来年度から適用の予定である。

こうした中で、わが国が現状を放置するならば、かねてからの6重苦もあいまって、日本企業の研究開発拠点、あるいは企業の超過収益力の源泉である無形資産が当該制度の導入国に移転しかねない。従って、わが国においては、既存の研究開発促進税制の拡充・恒久化を行うこともさることながら、わが国の研究開発拠点としての立地競争力を維持・強化するためにも、欧州諸国ですでに導入されている当該制度の創設を急ぐべきである。

パテントボックスとは、法人の課税所得のうち特許等の知的財産による部分を抜き出して、前者に対しては低い法人税率を適用するものです。

企業にとっては、低い税率によって税金費用を削減できるメリットがあり、国にとっては、国内の研究開発拠点の流出を防止し、海外から研究開発型の企業を誘致し、国内でのイノベーションを促進し、引いては国内経済の活性化を図ろうとするものです。

既に、オランダ、スイス、アイルランドといった国でパテントボックス税制が導入されており、さらに来年4月からはイギリスでも導入されることが決まっています。例えば、スイスではそもそも標準の法人税率が12%〜25%と日本に比べて大幅に低いうえ、パテントボックスが適用される所得については8%〜12%とさらに低い税率となっています。

下記は、各国の標準の法人税率とパテントボックス税制(または類似の税制)に適用される軽減税率を示したものです。各国の制度は対象となる特許等の範囲、所得の範囲などが異なるため横並びでの比較はできませんが、いずれの国も相当程度低い税率を設定しています。

国名オランダルクセンブルクスイスアイルランドベルギーフランスイギリス
標準税率25%28.8%12-25%12.5%34%33.3%22%
(2013/4-) 
軽減税率5%5.76%8-12%0-12.5%6.8%15%10%

このため、グーグルは当初からスイスに、ヤフーは欧州本社をロンドンからスイスに移転日産も欧州本社をスイスに移転ホーユーがロンドンからオランダへ移転、サンスターが大阪からスイスに本社を移転しているほか、ルクセンブルクにはスカイプが世界本社を、eBay、Apple、帝人、ファナックといった会社が欧州本社を置いています。

このようにイギリスの法人税率が欧州各国に比べて競争力が失われてきたため、イギリス政府は標準の法人税率自体の引き下げ(26%から22%へ段階的に引き下げ)に加えて、パテントボックスを導入することにしたものです。

イギリスのパテントボックス税制では、製品の一部でも対象特許が用いられていれば当該製品から発生する全世界(特許を取得していない国を含む)の所得の全額がパテントボックス税制の対象となる、特許保有会社と開発会社はグループ内の別会社でも構わないなど、かなり広範な範囲で本制度の利用が可能な設計になっています。

現在の日本の法人税の実効税率は復興特別法人税を含めて約38%と上記に比べるとかなり高い水準となっているため、イギリス法人において特許を用いた製品の製造・販売を行なっている場合(ほとんどの場合、該当するものと想定されます)には、来年4月からの適用開始に向けて、パテントボックスの利用により税金費用の削減が可能かどうかを検証する必要があります。

主な検証のポイントは以下のとおりです。

  • 英国法人がUK特許またはEU特許を保有しているか
  • 英国法人がUK特許またはEU特許の独占実施権を保有しているか
  • 製造、販売している製品に当該特許が用いられているか
  • 当該特許は当該法人またはグループ会社が発明したものか
  • 当該法人がパテントボックス適用のための「開発要件」と「管理要件」を満たしているか
  • 当該法人はR&D税制による控除額を十分に使用しているか
  • 当該法人が収受するロイヤルティは移転価格税制に対応しているか
  • 当該法人はタックスヘイブン税制の適用除外要件を満たしているか
  • 節税額はどの程度と見込まれるか

上記が満たされるよう、またパテントボックス税制を最大限活用できるように、グループ会社間での特許の保有(どの会社に保有させるか)やライセンス関係を見なおしていく必要があります。

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エルピーダ、特許訴訟で和解に応ずる。相手はあのインテレクチュアル・ベンチャーズ

本件、日本ではほとんど報道されていませんが、会社更生手続き中のエルピーダメモリが米国における特許侵害訴訟において和解に達したことが、相手側であるインテレクチュアル・ベンチャーズ(Intellectual Ventures)ニュースリリースで明らかになっています。(なお、エルピーダ側はリリースを出しておりません。)

ニュースリリースによりますと、2012年9月24日にIV社は3件の係争案件について、SK hynix(旧ハイニクス半導体)およびエルピーダメモリと和解に達し、裁判所およびITCにおける両社に対する提訴をすべて取り下げるとのことです。

細かい和解の条件は開示されていませんが、別途出ているIV側の責任者であるMelissa Finocchio氏のブログを見ますと、両社はIV社とライセンス契約を結ぶことになったようです。

このインテレクチュアル・ベンチャーズという会社はマイクロソフトの元CTO(Chief Technology Officer)だったNathan Myhrvoldという人が設立した会社で、自ら研究・開発をして特許出願をしているほか、いくつかの特許買取ファンドを運営していて極めて多数の特許を買い集めていることで有名な会社です。

また、今の産業革新機構は、当初は政府の「知的財産による競争力強化専門調査会第10回(2009年1月14日)」あたりでは、 日本版インテレクチュアル・ベンチャーズともイノベーション創造機構とも言われていたもので、知的財産に投資するファンドとしてその頃から一部業界では注目の会社でした。

更にIV社の日本代表は、知的財産業界では著名な元富士通常務知的財産本部長の加藤幹之氏であり、着々と日本でも存在感を増してきています。大学とも一定の関係を築いているようで、最近では慶応大学とともにセミナーを開催しています。

さて、そんな何だか得体のしれない特許ファンドを運営しているIV社は、基本的には買い集めた特許を他社にライセンスして収益を獲得するというビジネスモデルでやっていました。利益獲得のために特許を買い集めているというところは、いわゆるパテント・トロール(自らは製品やサービスを作らず、他社からロイヤルティ収入を得ることを目的に特許を取得する会社。Non Practicing Entity, NPEともいう。)と同じであり、人によってはIV社は世界最大のパテント・トロールであるとも言われています。ただ、CEOのNathan Myhrvoldは繰り返し「極力裁判はしない」と言っていて実際に特許侵害訴訟は起こしていませんでした。ただし、2010年12月までは。その時に訴えられた会社のなかに、エルピーダとハイニクスが含まれていたのです。

実は今回の和解が知財業界で注目されているのは、エルピーダはあまり関係なく、IV社にとって最初の訴訟案件での最初の和解となったからなのです。Melissa FinocchioはCEOの方針に従い法廷ではなく会議室での握手を志向すると書いていますが、結局裁判をやって和解に持ち込んでしまった以上、トロールとどう違うのかは説明が困難です。

いまだ和解をしていない他の被告会社は、多額の費用をかけて裁判を継続するのか、和解してライセンス契約を結ぶのか、悩ましい日々が続きます。

パテント・トロールは、自らは何も生み出さず特許権を振り回して事業会社の事業を人質にお金をせしめていく無法な会社というイメージを持たれていますが、最初に特許を買い取る際にはそれで儲かるかどうかは保証されておらず明らかにリスクを取っています。特許を売った側は自分たちでは現金化が困難な特許権が現金になるわけで、IV社のおかげで自分たちが持っていた特許の価値が顕在化するのはありがたいことです。売る側である大学や個人、破綻会社なども事業を自ら行なっていないという意味ではトロールと一緒なので、トロールかそうでないかの線引は難しいのです。

なお、日本では裁判をやってもあまり多額の賠償金が取れないこともあって、トロールはあまり活躍できていないようです。こんな国では特許を取る意味があまりなく、特許の価値も低いものとならざるを得ませんが、果たしてこれでよいのでしょうか。

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お菓子メーカーの海外戦略とブランド

ちょっと前(9/20))にカルビーが北米で「Jagabee」を販売するというニュースが出ていましたが、今度は江崎グリコがベトナムで「ポッキー」を販売するというニュースが出ました。

カルビーのニュースリリース

江崎グリコのニュースリリース

いずれも伸び悩む国内市場から海外へ出ていくという話なのですが、その戦略は大きく異なったものとなっています。

カルビーの進出先は、世界一大きい北米市場であり、2019年3月期までに売上高500億円を目標としています。

他方、江崎グリコの方は、成長著しいベトナム市場であり、2016年度に約40億円の売上高を目指しています。なお、日経速報ニュースによると、ベトナムの菓子市場規模は約300億円で、年に20〜30%成長しているとのことです。

マーケティングについては、カルビーは資本提携先のペプシコグループが北米での独占権をもって販売とマーケティングを行うこととなっており、東洋経済オンラインの記事によると当面はフリトレー社のブランドが付されて、例えば「フリトレー・ジャガビー」として販売されることになるようです。

カルビーは1970年から北米市場において独自に現地生産・販売活動を行なっていましたが、2012年3月期の売上高はわずか16億円と苦戦しており、同市場において「Calbee」ブランドはいまだ知名度もなく、すなわち顧客吸引力も獲得していないものと思われます。

そこで、カルビーは自前主義を改め、資本提携先(カルビーの20%株主)であるペプシコの販売網とブランドを使って、自社の高い製造ノウハウの詰まった「Jagabee」を売り出す戦略をとったということです。製造はするけど販売は任せるという立場ですね。

資本提携で出資を受けると、外資に買収されたなどと言われがちですが、カルビーの場合には20%というマイナー出資であり、しかも筆頭株主は僅差の21%ながら創業者一族の株主会であることから、お金だけ出させてあまり支配は受けないという形になっています。北米で「Calbee」ブランドを浸透させることはできませんが、フリトレーブランドの販売網で「Jagabee」を売り出せるのは非常に効果的ではないかと思います。

次に、江崎グリコの方を見てみますと、こちらは現地で強力な販売網をもつ企業と資本提携を結んで、現地企業の10%株主となった(つまり、江崎グリコがお金を出す側)うえで、ブランドは「Glico Pocky」として売り込んでいくという形です。製造についてももちろんグリコ自身がタイにある子会社で行うということで、販売網だけ現地提携先の協力を得て、自社ブランドの浸透を図るという形ですね。

いずれの会社も、海外進出という企業戦略を達成するために、自社に足りないリソース(ブランド、販売網、マーケティング)を自社がもっているリソース(製造技術・ノウハウ、資金)を出すことによって補っているということがいえます。

事業戦略を実行するために知的財産をどのように活用するかを考える上で参考になる事例だと思います。

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特許権を工場財団に組み入れて担保として差し出すシャープについて

シャープ「工場財団」知財も差し出す 主力取引行が土地など一括担保で

すっかり銀行の管理下に入ってしまったように見えるシャープですが、今度は追加担保の差し入れのために工場財団を組成するとの報道がありました。

工場財団とは、工場の土地、建物、機械設備などを一括して「工場財団」としてまとめたもので、工場の所有者が抵当権を設定して借入を受けることを目的に設定するもの(工場抵当法8条1項)です。この法律は、明治38年の法律でいまだにカタカナ混じりで読みにくいです。

工場財団に含めることができるものは以下のとおり(同法11条)で、工業所有権が入っています。

  1. 工場に属する土地および工作物
  2. 機械、器具、電柱、電線、配置諸管、軌条その他の付属物
  3. 地上権
  4. 賃貸人の承諾があるときは物の賃借権
  5. 工業所有権
  6. ダム使用権

工場財団を組成する際には、必ずしも工業所有権を含める必要はありませんが、仮に、特許権や商標権といった工業所有権が工場財団に含まれることになった場合には、特許登録簿に当該特許権等が工場財団に属することとなった旨が登録され、以後、個別に譲渡、差し押さえ、仮処分などをすることができなくなります(同法13条2項)。

ここで、賃貸をする場合には抵当権者の同意が必要(同法13条2項)とありますので、実施権の許諾がこれに準ずる扱いになるとすると、既存のライセンス契約や今後のライセンス契約については銀行の許諾が必要になります。

また、工場財団から一部のものを分離する際にも、抵当権者の同意が必要です。

ちなみに、工場抵当登記規則12条2項を見ると、工業所有権についての専用実施(使用)権、通常実施(使用)権も財団に含められますので、他社からの許諾を得て実施している特許権等については、個別に列挙して工場財団に含めることも可能です。工場の操業継続に必要なものという意味では、ここまで取り込む必要があるかもしれません。


今回の場合は、財団に組み込まれる工場の操業に必要な特・実・意・商の各権利は全て差し出せと銀行から強要されるものと思われますが、特許権も商標権もその数が膨大なので、組み入れるものを選定して目録を作成するだけで大作業です。

鴻海との交渉は進展していないようで、インテルが欲しいものをシャープが提供できるかどうかわかりませんが、もしシャープの魅力が知的財産権にあるとしたら、それが工場財団に組み込まれて(採算の取れない工場)不動産と一体化して銀行の担保に取られてしまうのは、交渉上困ったことになるかもしれません。

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IP Valuation 特許事務所
松本 浩一郎
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シャープの知的財産価値を考えてみる

シャープがかつてない苦境に立たされています。(Yahoo! ファイナンスの株価チャート

MZ-2000の頃からつい最近のem-oneまで永くシャープ製品を愛用していた者としては悲しい気持ちになりますが、気がついてみると今は使用している製品がひとつもなく、いつの間にか周囲には多数のApple製品が。これが正に現在の苦境を表しているようで心苦しいものがあります。

今日は、そんなシャープの知的財産(技術=特許、ブランド=商標)の価値をざっくりと考えてみます。

<事業価値はどれくらい?>

知的財産は事業に使ってなんぼですので、まずは事業価値全体を考えます。

営業損益の推移を見ると、2011年9月期に2008年6月期以来の300億円超となったあと、過去3四半期連続でマイナスが続いています。しかも、期を追うごとにマイナスの額が大きくなっており、業績は正に急降下といった状況です。

会社による今期(2013年3月期)の業績予想は、営業利益が▲1,000億円となっており、第1四半期が▲941億円ですので残りの9か月の営業利益は差し引きたったの59億円、つまりほとんど損益ゼロで推移するという見通しになっています。

減価償却費とのれん償却費の合計額は四半期毎にでこぼこがありますが、概ね四半期で600億円、年間では2400億円となっています。

そうすると、直近12か月および今期予想に基づくEBITDAは、1,050億円(▲1,350+2,400)〜1,400億円(▲1,000+2,400)となります。

シャープの営業利益等の推移(単位:百万円)
四半期2011/62011/92011/122012/32012/6直近12か月
営業損益3,52530,060-24,448-46,689-94,133-135,210
減価償却費・のれん償却費62,77764,94658,61563,44152,775239,777
EBITDA66,30295,00634,16716,752-41,358104,567

次に、事業価値(EV)に対するEBITDAの比率(EV/EBITDA倍率)を、同業他社で見てみます。

事業価値を(株式時価総額+少数株主持分+有利子負債ー現預金ー短期有価証券)として、同業他社7社(パナ、ソニー、日立、東芝、NEC、三菱電機、富士通)の倍率を直近12か月実績で見てみると、最小が富士通の3.3倍、最大が東芝の5.8倍となり、平均ではほぼちょうど5倍となりました。(ちなみに、シャープの倍率は12倍と異常値になっています。これは、事業価値の計算上、有利子負債を簿価で評価していますが、実際には有利子負債の時価が簿価を下回っていることを示唆しています。)

これをさきほどのEBITDA 1,050億円〜1,400億円に当てはめると、シャープの事業価値は5,250億円〜7,000億円ということになります。

これに「25%ルール」をあてはめると、知的財産(技術およびブランド)の価値は、約1,300億円〜1,750億円となります。

<2012年6月末のバランスシートと比べると>

シャープの2012年6月末の貸借対照表を組み替えて、左側(借方)に事業用資産、右側(貸方)に調達資金とすると、以下のようになります。理論上は、左右それぞれの合計額は事業価値とイコールとなるはずですが、簿価では1兆4,819億円となっており、上記の計算とは大きく離れています。

まず、右側から見ていくと、株主資本が4,706億円となっていますが、直近(8/27)の株式時価総額(自己株式調整後)は2,168億円と半分以下になっています。まだだいぶ差額がありますが、残りは前記のとおり有利子負債の簿価と時価に差額があることが示唆されます。逆に言うと、EBITDA倍率5倍を前提とすると、有利子負債1兆円を支えるためには年間2,000億円、四半期では500億円のEBITDAが必要であり、2011年9月期まではそれをクリアしていたものがそれ以降は下回っているため、ここへきて銀行がシャープに強い圧力をかけているということです。

なお、格付会社のR&Iも、8月20日にシャープの格付けをシングルAマイナスからトリプルBに2段階引き下げています。

次に、バランスシートの左側と比べてみます。これは簿価ベースなので、シャープの保有している技術=特許やブランド=商標は載っておらず、時価ベースではこれらの評価額が更に加算されてくることになります。これは、固定資産について、大幅な減損損失が生じていることを示唆しています。

運転資本については、時価と簿価の差額がないものと想定すると、事業価値5,250〜7,000億円から運転資本を差し引いた1,826〜3,576億円が固定資産と技術・ブランドの合計額ということになります。

2012年6月末 シャープ連結B/S組換版 (単位:億円)
運転資本(純額)3,424有利子負債(純額)10,030
固定資産・繰延資産11,395少数株主持分83
技術・ブランド0株主資本4,706
    
事業用資産合計14,819調達資金合計14,819

 

<第三者によるブランド評価額>

ブランドについては、複数の外部調査会社が評価額を公表しています。

日本経済新聞社が毎年公表しているブランド価値ランキングの2011年度版によると、シャープのブランド価値は以下のとおりとなっています。このうち株主スコア分を計算すると、666,131×(291/990)=195,802 となり、ブランド価値だけで1,958億円という評価になります。

順位会社名CB価値(百万円)CBスコア顧客スコア従業員スコア株主スコア
22シャープ666,131990371328291

また、インターブランド社が公表しているJapan's Best Global Brands 2012によると、シャープは前年から1つ順位は落としているものの13位につけており、ブランド価値は1,884百万ドル(1ドル80円換算で1,507億円)と評価されています。

<コスト・アプローチではどうか>

研究開発費や広告宣伝費を投下することによって生まれてくる技術やブランドについては、多額の費用をかけたからといって価値あるものが生み出されるという直接的な関係がないため、知的財産の価値評価にあたってはコスト・アプローチを採用することは少ないと言われています。

しかし、ゴーイングコンサーンである営利企業が毎年多額の研究開発費や広告宣伝費を支出していて、それに見合うリターンが得られていないとしたら、そのような営みは持続不能であると言わざるを得ません。もしかすると、シャープは正にそのような状況になりつつあるのかもしれませんが、過去の研究開発費や広告宣伝費の金額は一定の参考になります。

過去5期間の研究開発費を見ると、金額は減少傾向にあるものの売上高に対する比率ではほぼ6%程度で推移しているといえます。また、広告宣伝費についても同様にほぼ2%程度で推移しているといえます。

シャープの事業セグメントは今後ますます携帯電話にシフトしていくことが予想され、そうすると現状の製品開発サイクルでは製品寿命は1年未満となるので、資産性のある研究開発費はますます小さくなっていくものと考えられます。

他方、広告宣伝費=ブランドの方は、研究開発費に比較すると、より長期間に渡っての効果が期待できるため、仮に効果が持続する期間を5年とすると、おおよそ2.5年分((4.5+3.5+2.5+1.5+0.5)/5)の支出額に相当するブランド価値が認識されることになります。

2013年3月期の予想売上高2兆5千億円、広告宣伝費対売上高比率2%では年間の広告宣伝費が500億円となり、その2.5年分だとブランド価値は1,250億円と計算されます。

研究開発費・広告宣伝費の推移(単位:百万円)
決算期2008/3期2009/3期2010/3期2011/3期2012/3期
研究開発費196,186195,525166,507173,983154,798
対売上高比率5.7%6.9%6.0%5.8%6.3%
広告宣伝費75,37567,25950,24654,954n/a
対売上高比率2.2%2.4%1.8%1.8%n/a

<QK値について>

特許価値評価指標である「YK値」と株式時価総額を関連させた「QK値」という指標を株式会社QUICKが開発しており、それによるとシャープは2012年7月度で第2位になっています。「QK値が大きいということは特許価値と比べて時価総額が小さい」ことを示しているということになるようです。シャープの場合には、高いYK値(特許価値)を有していながら株価がどんどん下がってしまったため、高いQK値になったものと考えられます。YK値の算定にあたっては財務情報は用いられていないため、シャープの場合には、独占性が高い特許を多数保有しているがそれらを事業に活用して収益を上げられていない、という姿が読み取れます。

<まとめ>

現状のシャープは事業によってプラスのキャッシュ・フローを生み出せていない状況にあり、この意味では技術もブランドも価値がないことになります。しかしながら、2兆5千億円の売上高、1,000億円強のEBITDAを生み出すゴーイングコンサーンはやはり一定の価値がある経済的な主体であり、それに貢献している技術やブランドにも一定の価値が認められます。ただし、技術の価値については、製品の競争が激しく収益を上げることが難しくなっていること、製品のライフサイクルが極めて短くなっていることなどから、資産として認識できる部分はかなり限られるものと考えられます。他方、ブランドについては、日本のみならず世界の消費者に広く認知されているブランドであり、第三者の評価でも1千億円以上の評価額になっていることから、1,000〜2,000億円の価値があるといえるのではないでしょうか。

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Koichiro MATSUMOTO / kmatsu@ipval.net
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<おまけ:今まで使ったシャープ製品>

  • MZ-2000
  • PA-9500
  • PA-9550
  • MI-506DC
  • NTT-P 312s
  • SH-812i
  • MI-E25DC
  • VN-EZ5 (internet viewcam)
  • PC-PJ120H
  • WS003SH (W-ZERO3)
  • WS007SH (W-ZERO3[es])
  • S01SHII (em-one)

釣りゲーム裁判について

携帯電話の釣りゲームをめぐってGREEがDeNAを訴えた裁判は、1審(平成24年2月23日、東京地裁)ではDeNAの著作権侵害が認められ2億3千万円あまりの損害賠償の支払いが命じられましたが、2審(平成24年8月8日、知財高裁)では一転して侵害は全く認められずDeNA側の全面勝訴となりました。

1審と2審でどのように判断が変わったのか、判決文をもとに見てみたいと思います。

まず、1審でGREEの主張が認められたのは、釣り★スタの「魚の引き寄せ画面」に関する著作権(翻案権、公衆送信権)および著作者人格権(同一性保持権)についてのみです。これ以外に、主要画面の変遷等についても争っていましたが、いずれも認められていません。なお、DeNAが後出しで似たような釣りゲームを作ったから、ということではないことには留意が必要です。

問題となった魚の引き寄せ画面は以下のとおりであり、左が釣りスタ(原告作品)、右が釣りゲータウン2(被告作品)です。

picture1(出所:1審判決文)

1審では、釣り★スタの魚の引き寄せ画面について、

特に、水中に三重の同心円を大きく描き、釣り針に掛かった魚を黒い魚影として水中全体を動き回らせ、魚を引き寄せる タイミングを、魚影が同心円の所定の位置に来たときに引き寄せやすくすることによって表した点は、原告作品以前に配信された他の釣りゲームには全く見られなかったものであり、この点に原告作品の製作者の個性が強く表れている

として、釣り★スタの魚の引き寄せ画面が創作性のある表現であることを認めて、著作権の対象であることを認定しています。そして、釣りゲータウン2の魚の引き寄せ画面については、同心円の配色、魚影の描き方、同心円の画像の変化、等において相違があることを認めた上で、水中のみを真横から描いている、中央に三重の同心円を描いている、魚を黒い魚影・全体に薄暗い青系統・水底と岩陰のみ配置、等についての同一性が維持されているとして、

被告作品(釣りゲータウン2)の魚の引き寄せ画面は、原告作品の魚の引き寄せ画面との同一性を維持しながら、同心円の配色や、魚影が同心円上のどの位置にある時に魚を引き寄せやすくするかという点等に変更を加えて、新たに被告作品の製作者の思想又は感情を創作的に表現したものであり、これに接する者が原告作品の魚の引き寄せ画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる

と認定し、釣りゲータウン2の製作時期を考慮すると、「原告作品(釣り★スタ)の魚の引き寄せ画面を翻案したものと認められる」としています。

さらに、同一性を有する部分が単なるアイデア又はありふれた表現との反論に対しても、

単に、「水面上を捨象して水中のみを表示する」、「水中に三重の同心円を表示する」、「魚の姿を魚影で表す」などといったアイデアにとどまるものではなく、「どの程度の大きさの同心円を水中のどこに配置し」、「同心円の背景や水中の魚の姿をどのように描き」、「魚にどのような動きをさせ」、「同心円やその背景及び魚との関係で釣り糸を巻くタイミングをどのように表すか」などの点において多数の選択の幅がある中で、上記の具体的な表現を採用したものであるから、これらの共通点が単なるアイデアにすぎないとはいえない

として、したがって創作性を有する具体的表現のレベルで同一性を有していると認めています。

乱暴に言ってしまうと、釣り★スタ以前には同心円を用いた釣りゲームはなかったので、これは創作性のある表現であって著作権で保護されるものなので、その後に出てきた同心円を用いた釣りゲームで具体的な表現が共通しているものはコピー品である、としたものです。

これに対して、2審では、まず著作物の翻案権および同一性保持権について、最高裁判例を引いて以下のとおり判示します。

著作物の本案とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない著作物を創作する行為は、既存の著作物の翻案に当たらない。

また、既存の著作物の著作者の意に反して、表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に変更、切除その他の改変を加えて、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを創作することは、著作権法20条2項に該当する場合を除き、同一性保持権の侵害に当たる。

そして、両作品は、水中のみが真横から描かれている、画面中央に三重の同心円・黒色の魚影および釣り糸が描かれている、全体的に青色、下方に岩陰などの点で共通しているとしたうえで、

そもそも、釣りゲームにおいて、まず、水中のみを描くことや、水中の画像に魚影、釣り糸及び岩陰を描くこと、水中の画像の配色が全体的に青色であることは(中略)他の釣りゲームにも存在するものである上、実際の水中の影像と比較しても、ありふれた表現といわざるを得ない。

次に、水中を真横から水平方向に描き、魚影が動き回る際にも背景の画像は静止していることは、原告作品の特徴の1つでもあるが、このような手法で水中の様子を描くこと自体は、アイデアというべきものである。

として、1審で単なるアイデアではないとされたものについて、ありふれた表現またはアイデアであると判断しています。

更に、本件のポイントである同心円については、

三重の同心円を採用することは、従前の釣りゲームにはみられなかったものであるが、弓道、射撃及びダーツ等における同心円を釣りゲームに応用したものというべきものであって、釣りゲームに同心円を採用すること自体は、アイデアの範疇に属するものである。

として、同心円を用いることは表現それ自体ではないものとしています。

そして、同心円を用いた具体的な表現については、「いずれも画面のほぼ中央に描かれ、中心からほぼ等間隔の三重の同心円であるという点」は共通しているものの、原告作品(釣り★スタ)では

画面における水中の影像が占める部分が、全体の約5分の3にすぎない横長の長方形で、
同心円が上下両端にややはみ出して接し、
(同心円の)大きさ等も変化がない 
同心円の配色が、最も外側のドーナツ形状部分及び中心の円の部分には、水中を表現する青色よりも薄い色
 (最も外側の)ドーナツ形状部分と中心の円部分の間の部分には、背景の水中画面がそのまま表示
同心円が強調されているものではない 

のに対して、被告作品(釣りゲータウン2)では

水中の影像が画面全体のほぼ全部を占める略正方形で、
大きさが変化する同心円が最大になった場合であっても両端に接することはなく、
(同心円の配色は)放射状に仕切られた11個のパネルの、中心の円を覗いた部分に緑色と紫色
同心円の存在が強調されている
同心円のパネルの配色部分の数及び場所も、魚の引き寄せ画面ごとに異なり、同一画面内でも変化
同心円の中心の円の部分は、コインが回転するような動きをし(中略)5種類に変化する 

という点で相違していて、具体的表現が異なっているため、これに接する者の印象は必ずしも同一のものとはいえない、すなわち翻案には当たらないとの結論を導いています。 

2審では、釣りゲータウン2において三重の同心円が採用されていることについては、「従前の釣りゲームにおいて見られない特徴であり、(中略)第1審被告ら(DeNAおよびORSO)は、この点につき原告作品(釣り★スタ)からヒントを得たものであると推測される」として、同心円について両者の関連を示唆しています。しかしそうであっても、同心円を採用することはアイディアであるというのが2審の判断で、アイディアは著作権では保護されず、著作権の保護対象である具体的な表現を見ると、上記のとおり異なっているため、「同心円を採用したことが共通することの一事をもって、表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとはいえない」とされています。

以上見てみると、乱暴に言ってしまうと、1審では「三重の同心円」が創作性のある表現として認められていたのに対して、2審ではそれ自体はアイディアであって、同心円を用いた具体的な表現は相違点があるため受ける印象は同じとはいえない、となったということです。

およそすべてのゲームは「タイミングよくボタンを押す」ことで成立しているので、ある物体とある物体が重なったらボタンを押す、という表現が著作物として保護されるのは具合が悪いことになってしまいます。本件については、1審で巨額の賠償が認められて驚きましたが、ソフトウェアのコピーではないですし、「同心円」特許のようなものも成立しませんので、妥当な判決になったと考えています。

 

 


 

 

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函館に特許事務所ができていた

今日は価値評価とは関係ない話題です。

弁護士の世界では「弁護士ゼロワン地域」という言葉があって、弁護士の偏在がかねてから問題となっていたようですが、地方裁判所支部単位での「ゼロワン」については、昨年12月に解消されたとのことです。(日弁連会長談話

ひるがえって、弁理士について見てみると、2012年6月末で都道府県別で弁理士の「主たる事務所」がないというところはありませんが、一つしかない県が二県(佐賀、大分)、二つが三県(青森、鳥取、島根)、三つが二県(岩手、長崎)となっています。そして東京はその数5,441でなんと全体の56.5%に達しており、著しい偏在ぶりです。

で、私の出身地である函館市には少なくとも私が知る限りずっと特許事務所がなかったのです。ところが、今日たまたま「発明推進協会」→「北海道発明協会」→「北海道知的財産戦略本部」→「北海道内の弁理士リスト」とたどっていったら登録番号18126号の「鶴見 淳」先生が函館市松陰町に事務所を置いていることがわかったわけです。

日本弁理士会への登録は今年の4月4日となっていますので、函館市は晴れて今年の4月から弁理士のいる街になっていたのです。ちなみに北海道で札幌以外に弁理士のいる街は帯広市だけなんです。旭川にも釧路にも苫小牧にもいないんです。

全国にあるはずの知財総合支援窓口はどうなっているかというと、函館、旭川、室蘭、釧路、帯広、北見、苫小牧に「サテライト」と称してテレビ会議システムが備えてあり、そこから札幌の支援担当者に相談するというなんともまどろっこしい形になっていました。まあ、北海道は広いからやむを得ない面はありますけど。

ところが、この函館サテライトの場所が驚きの「桔梗町379番地」でした。そんなところまでわざわざテレビ会議をやりには行かないだろうなと思うのですが、このサテライト、果たしてどの程度使われているのでしょうか。

そういう意味で、松陰町に弁理士がいるというのは実に便利だと思います。特許や商標について何か相談があるときはぜひ鶴見先生の事務所を訪れていただきたいと思います。ちなみにちょっと調べてみたら鶴見先生は司法書士でもいらっしゃるので、より幅広くいろいろな相談に対応してもらえそうです。

函館からはいまだに地域団体商標も出ていません(「函館がごめ昆布」は出願しないんでしょうか)し、イカール星人やガゴメマンの著作権等はどうなっているんでしょうか。全国的な人気になっている「くまモン」は権利を熊本県が買い取ったうえで、無償で使用許可を出すことでうまくいっているようです。(仕掛人が小山薫堂氏というのもありますが)

自分が全然役に立っていないのは申し訳ないのですが、函館市は知的財産とうまく付き合っていってほしいと思います。
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最近の移転価格税制に関する新聞記事から

8月3日の日経新聞によると、日本企業が進出先のアジア各国で移転価格税制の適用を受けるケースが増えているとのことです。

日本企業が進出先のアジアで思わぬ課税強化に直面する例が増えている。日本の当局にも課税されて二重課税となり、司法の場での紛争となるケースも少なくない。アジア諸国の税務当局が日本企業に照準を合わせているのはなぜか。

課税を巡る紛争で、企業が予期せぬ支出を迫られる税務リスク。アジアに進出した企業の間でそのリスクが高まってきたのは、新興国が自国で活動するグローバル企業の課税に目覚めたからだ。

インドネシアでダイハツ工業が約58億円の追徴課税を求められて現地税務当局と争っているほか、中国でも移転価格税制の課税が強化されていて、2010年の1件当たりの平均追徴税額は2006年比で4倍となっているようです。

移転価格税制といえば、今までは海外へ生産拠点を移した企業が、日本の税務当局から「海外へ所得を移転した」として申告漏れを指摘されるケースが典型的でした。日本の税務当局から指摘を受けたケースには、最近は以下のようなものがあります。

  • 2012年7月、東京エレクトロン、東京国税局、6年間で143億円、異議申立て
  • 2012年6月、クボタ、大阪国税局、6年間で48億円、異議申立て
  • 2012年5月、日本ガイシ、名古屋国税局、5年間で160億円、異議申立て
  • 2012年2月、東洋炭素、大阪国税局、6年間で12億円

従来は国税局の課税処分に対して異議を申し立てるケースは少なかったのですが、最近は当たり前のように異議申立てがなされています。(2008年10月のアドビ事件東京高裁判決が税務当局に対して厳しいものであったことが影響していいると思われます)

2006年6月に1223億円の申告漏れを指摘された武田薬品のケースでは、大阪国税局が異議申立てを受け入れて、977億円を取り消す決定を2012年4月に行ないましたが、武田薬品はさらに残りの246億円についても取り消しを求めて、5月に大阪国税不服審判所に審査請求を出して争っています。

移転価格税制でしばしば問題となるのは、現地子会社が日本本社に対して支払っている特許使用料(こだわる人は「実施料」と言いたいところだと思いますが、以下新聞記事に合わせて「使用料」とします)やブランド使用料が第三者間取引価格になっているかどうか、ということです。

日本の主要企業130社がアジアで稼いだ営業利益は、11年3月期に日本国内の利益を上回り、過去最高となった。海外での稼ぎの一部を特許使用料などとして本社に吸い上げて日本国内に還元している。アジア各国の税務当局から見れば、本来は自国の税収を生む利益と映る。

このような新聞記事の書き方だといかにも「特許使用料」名目で利益を本社に吸い上げているように見えますが、海外子会社が事業活動に当たって本社の技術やブランドを使用して利益を上げているのであれば、当然その対価は支払う必要がありますので、「吸い上げて」というのはミスリーディングと思われます。

通常、日本本社が研究開発費や広告宣伝費を負担して技術開発やブランド構築を行なっていることを考慮すれば、特許使用料やブランド使用料を子会社から徴収することは何ら問題ではないはずです。ただし、その対価が妥当であることを日本の税務当局にも進出先の国の税務当局にもきちんと説明できるようにあらかじめ社内で資料を用意しておくことは重要です。

記事では比較的税務対策が手薄な企業も多数海外へ進出していることがリスクとして挙げられています。特許や商標といった無形資産の使用料(ロイヤルティ)の授受を海外子会社と行う場合には、その金額の算定をどのようにして行ったか、第三者間取引価格として合理的な価格となっているかどうか、について対外的に説明できる資料を作成しておくべきでしょう。

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